特定秘密保護法はアメリカがデザインした・・・


文/小笠原みどり(ジャーナリスト)。
朝日新聞記者を経て、2004年、米スタンフォード大でフルブライト・ジャーナリスト研修。
現在、カナダ・クイーンズ大学大学院博士課程在籍。監視社会批判を続ける。

【転載開始】※抜粋転載。

<スノーデンの警告「僕は日本のみなさんを本気で心配しています」>

■特定秘密保護法はアメリカがデザインした

5月、スノーデンは亡命先のロシアから、私のインタビューに応じた。
詳細は他所で報じたが(『サンデー毎日』6月12日号〜7月10日号掲載)、
彼はNSAが日本人をどう監視しているかを語ると同時に、
日本の言論の自由が危機的状況にあることを深く憂えていた。
それは彼自身が暴露した監視問題についての世界と日本との深刻な情報の
ギャップにも反映されていた。
彼の発言のいくつかから、日本におけるNSA監視と報道の「不自由」の関係を考えたい。

発言1 「日本で近年成立した(特定)秘密保護法は、実はアメリカがデザインしたものです」

スノーデンはNSAの仕事を請け負うコンピュータ会社デルの社員として2009年に来日し、
東京都福生市で2年間暮らしていた。
勤務先は、近くの米空軍横田基地内にある日本のNSA本部。
NSAは米国防長官が直轄する、信号諜報と防諜の政府機関だが、
世界中の情報通信産業と密接な協力関係を築いている。
デルもその一つで、米国のスパイ活動はこうした下請け企業を隠れみのにしている。

米国の軍産複合体は、いまやIT企業に広く浸透し、
多くの技術が莫大な予算を得て軍事用に開発され、商用に転化されている。
NSAはテロ対策を名目にブッシュ政権から秘密裏に権限を与えられ、
大量監視システムを発達させていった。

スノーデンが働くNSAビルには、日本側の「パートナーたち」も訪れ、
自分たちの欲しい情報を提供してくれるようNSAに頼んでいたという。
が、NSAは日本の法律が政府による市民へのスパイ活動を認めていないことを
理由に情報提供を拒み、逆に、米国と秘密を共有できるよう日本の法律の変更を
促したというのだ。
米側から繰り返された提案が、スノーデンの言う「秘密法のデザイン」に当たる。

特定秘密保護法はスノーデンの告発から半年後の2013年12月、
国会で強行採決された。
これまで語られなかった背景を、スノーデンはこう明かした。

「これはNSAが外国政府に圧力をかける常套手段です。自分たちはすでに
諜報活動を実施していて、有用な情報が取れたが、法的な後ろ盾がなければ
継続できない、と外国政府に告げる。これを合法化する法律ができれば、
もっと機密性の高い情報も共有できると持ちかけられれば、相手国の
諜報関係者も情報が欲しいと思うようになる。こうして国の秘密は増殖し、
民主主義を腐敗させていく……」

特定秘密保護法により、国の秘密を漏らした者は最高懲役10年が課されることに
なった。
厳罰によって、政府の監視システムとそれが扱う秘密情報を人々の目から
隠すことができる。
では、NSAは日本でなにを監視しているのか。

発言2 「米政府が日本政府を盗聴していたというのは、ショックな話でした。日本は
米国の言うことはほとんどなんでも聞いてくれる、信じられないほど協力的な国。
今では平和主義の憲法を書き換えてまで、戦闘に加わろうとしているでしょう?
そこまでしてくれる相手を、どうして入念にスパイするのか?まったくバカげています」

これは、内部告発メディアのウィキリークスが昨夏公表した、NSAの大規模盗聴事件
「ターゲット・トーキョー」についてのスノーデンの感想だ。
NSAが少なくとも第一次安倍内閣時から内閣府、経済産業省、財務省、日銀、
同職員の自宅、三菱商事の天然ガス部門、三井物産の石油部門などの計35回線の
電話を盗聴していたことを記す内部文書が公にされた。

対象分野は、金融、貿易、エネルギー、環境問題などで、
いずれもテロとはなんの関係もない。
米国が表面上は「友好関係」を強調しながら、日本のなにを監視しているのかがわかる。
NSAと緊密な協力関係にある英語圏の国々、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、
カナダにも一部共有されていた(これらの国々はNSA文書で「ファイブ・アイズ」と呼ばれる)。

■日本の通信会社も協力しているはず

言うまでもなく、電話もインターネットも大半が民間企業によって運営されている。
SSOには企業の協力が欠かせない。
NSA文書は、世界中で80社以上との「戦略的パートナーシップ」を築いたと明かす。

米国内ではすでに、大手通信会社のベライゾンやAT&Tがデータ転送システムの
構築に協力し、利用者データをNSAに渡してきたことがニューヨーク・タイムズなど
によって報じられている。
日米間海底ケーブルのひとつ「トランス・パシフィック・オーシャン」の国際共同建設にも、
この両社が参加し、米側の上陸地点オレゴン州北部のネドンナ・ビーチの内陸、
ヒルズボロに陸揚げ局を設置している。

この位置が、NSAの最高機密文書に記された情報収集地点(「窒息ポイント」と呼ばれる)
のひとつと重なることから、日本からのデータがこの地点で吸い上げられている可能性は
高い。
中国、台湾、韓国もつなぐこの光ファイバー・ケーブルには、日本から
NTTコミュニケーションズが参加。千葉県南房総市に陸揚げ局・新丸山局を設置している。

発言3 「多くの場合、最大手の通信会社が最も密接に政府に協力しています。
それがその企業が最大手に成長した理由であり、法的な規制を回避して許認可を
得る手段でもあるわけです。つまり通信領域や事業を拡大したい企業側に経済的
インセンティブがはたらく。企業がNSAの目的を知らないはずはありません」

日本の通信会社がNSAに直接協力しているのか、それはスノーデンにも分からない。
だが、彼は言う。

「もし、日本の企業が日本の諜報機関に協力していないとしたら驚きですね。
というのは、世界中の諜報機関は同手法で得た情報を他国と交換する。
まるで野球カードのように。手法は年々攻撃的になり、最初はテロ防止に
限定されていたはずの目的も拡大している。交換されているのは、実は
人々のいのちなのです」

「僕が日本で得た印象は、米政府は日本政府にこうしたトレードに参加
するよう圧力をかけていたし、日本の諜報機関も参加したがっていた。
が、慎重だった。それは法律の縛りがあったからではないでしょうか。
その後、日本の監視法制が拡大していることを、僕は本気で心配しています」

日本のNSA活動が米軍基地を拠点としているように、NSA監視システムは
「対テロ戦争」下で世界に急速に張り巡らされた。新たな監視手段の導入が
常に「安全のため」と説明されるにもかかわらず、欧米で相次ぐ「テロ」は、
すでに強力な軍や警察の監視システムが人々の安全を守れてはいない
ことを露呈している。では、監視システムはなんのために使われているのか?

■大量監視に危機感欠く 日本のメディア

スノーデンの告発によって、米国では「模範的」「愛国的」といえるムスリム市民
たちが集中的な監視対象になり、調査報道ジャーナリストたちが「国家の脅威」
としてリストに上がっていることが明らかになった。
大量監視は私たちの安全ではなく、グローバルな支配体制を守るために、
すべての個人を潜在的容疑者として見張っているようだ。

そしてスノーデンが指摘するように、情報通信産業は利益の追求という
「経済的インセンティブ」に突き動かされながら、いまや世界の軍産複合体の中心部で、
この広範な戦争と支配の構造を下支えしている。

今のところ米国の戦場とはなっていない日本も、この戦争構造に組み込まれているし、
現に監視の下にある。
長年米軍基地を提供し、「思いやり予算」と日米地位協定で厚遇してきた日本ですら
執拗に監視されてきたことは、スノーデンを驚かせた。ターゲット・トーキョーは、
監視が「敵」や反対者に限らず、協力者や無関係な人々まで対象としていることを
明確にした。

と、同時に、日本政府は米国の監視システムの被害者でありながら、今後、
特定秘密保護法によって米国の世界監視体制を守る同調者として、
日本で暮らす人々の通信データを横流しする共犯者、加害者としての性格を
強めていくことを、スノーデンは憂慮している。

秘密保護法によって逮捕された記者やジャーナリストはまだいない。
だが、政府の特定秘密文書は昨年末時点で27万2020点、前年から8万点以上と
恐るべき勢いで増大している(2016年4月26日付朝日新聞)。
その間に、「世界報道の自由度ランキング」で近年順位を下げ続けて来た
日本がさらに今年72位へと転落したのは偶然ではない。

強権発動はなくとも、報道の「不自由」が日本のメディアに蔓延し、
英語や他言語がわかる特派員や現地スタッフが海外に何千人いようとも、
日本の外交、民主主義、そして戦争と平和に大いにかかわるスノーデンの告発が、
危機感をもって日本に伝えられることはなかった。
いや、強権発動を要せずして、日本の報道関係者はネット上の流動的、
断片的な情報から内向きに聞こえのよいもの、効率よくニュースにできるものを
選択する「不自由」に慣れ、日本人の世界を理解する力を深刻に低下させている。

これは実は、監視問題に限ったことではない。
史上最多といわれる難民問題から旧日本軍「慰安婦」問題まで、
世界の現場で起きている事象が日本にいる私たちに「自分の問題」として
感じられるまでに掘り下げて伝えられているとは言いがたい。
特に、日本への批判を含んだ声は、穏便に加工されて出荷されているようにみえる。

このツケを払わされるのは、おそらくメディアではない。
もちろん日本政府でもない。
71年前の敗戦時、多くの日本人が政府と報道機関が実は何年も前から
嘘ばかりついてきたことを初めて知った。
世界を知らず、世界から孤立し、聞こえのよいニュースに期待をかけたまま、
家族を、友人を、すべてを失った。が、政府も報道機関も生き延びた。

ツケを払わされるのは結局、悲しいまでに個人、私たち一人ひとりだ。
大量監視システムは「監視されても構わない」と思う人たちでさえ、執拗に追い回し、
いつでも「危険人物」に変えうることを、スノーデンは日本に警告した。
日本人が自分たちは関係ない、と思わされている間に。

【転載終了】

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 抜粋のつもりが結構長くなりました、面倒な方は斜め読みしてください。

 XKeyscoreシステムでの監視は、2013年の安倍政権からですが、
安倍氏が2度目の首相になったのは、米国が利用しやすい人間だからです。

 文中にもあります、「日本は米国の言うことはほとんどなんでも聞いてくれる、
信じられないほど協力的な国。」

 従来、監視システムとしてあったエシュロンは、テロに関するキーワードがあり、
そこに触れると通信機器が監視対象になったのですが、
XKeyscoreシステムは電話からメールまであらゆるものが監視されます。

 ヒラリー氏の「メールゲート事件」が象徴的な事例ですね。

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